日本におけるメタバース市場は、企業とコミュニティの結びつきを強化しながら、大きな広がりを見せている。特に教育、防災、地域創生、産業、働き方の5つの分野に重点を置き、XR(仮想現実・拡張現実)やAI技術と融合させることで、社会課題の解決や新たな価値創造に取り組む動きが加速している。
大阪を拠点とする株式会社Meta Heroesは、2025年9月に開催された「XR Kaigi Hub in 大阪」において、防災をテーマにしたメタバース体験を展開し、高い評価を受けた。彼らは世界的なゲームプラットフォーム「Fortnite」を活用した防災シミュレーション環境を提供し、地震・火災・水害などの災害を「安全に・リアルに」体験できる場を作り出している。この体験は子どもから大人まで幅広い層に受け入れられ、単なるエンターテインメントにとどまらず地域防災意識の向上に貢献している。こうした企業の具体的な取り組みが、地域コミュニティと産業界をつなぐ架け橋となっている。
Meta Heroesはさらに、教育機関や自治体と連携して、企画から開発、運用まで一気通貫の共創型アプローチを採用している。AIとXRの組み合わせにより、同じ体験を何度も安全に繰り返せる「繰り返し体験モデル」を実現し、学習の定着や行動変容を促すことに成功している。例えば、避難行動や災害対応の訓練を仮想空間で行い、現実の防災力アップに直結する評価指標の可視化を進めている点が特徴的だ。このような数値化された評価は、企業や自治体がメタバース活用の効果を明確に把握するうえで重要な役割を果たしている。
日本では他にも、NFT(非代替性トークン)を用いた地域活性化の事例が存在する。福岡県田川市では、『TAGAWADigitalConnect』というNFT活用のデジタルプラットフォームを創設し、地域資源のデジタル化や新規経済圏の創出を試みている。これにより地域内外の多様な主体がデジタル社会でつながり、持続可能な経済活動や社会活動が促進されている。教育、医療、福祉、スマートシティ構想との連携も視野に入れ、企業・自治体・コミュニティが一体となった未来型の地域モデルが検討されている。
このように日本のメタバース市場は、単なる技術導入や個別サービスの展開に留まらず、企業・自治体・地域コミュニティが連携するエコシステムの構築を通じて社会的なインパクトを拡大している。Meta Heroesのような先進企業の主導で、メタバースの可能性を教育、防災、地域創生などの実社会課題の解決に結びつける取り組みが加速し、国内外に影響を与え始めていることが今後の市場拡大を裏付けている。
さらに、メタバースの利用を支えるVR・XRデバイスの多様化と高度化も、市場成長を後押ししている。Meta(旧Facebook)のHorizon Worlds、Apple Vision ProのApp Store連携、PICOのアジア圏拡大、SamsungのGalaxy連携など、複数の大手IT企業が活発なデバイスエコシステムを形成し、ユーザー・クリエイター・企業が共存するコミュニティの広がりが顕著だ。これにより、企業はより多様な消費者接点をメタバース上で持つことが可能となり、参加者同士の交流や共同作業が促進されている。
結果として、メタバースは日本企業にとって単なるマーケティングやプロモーションの場ではなく、地域密着型の社会課題解決やコミュニティ活性化のプラットフォームとしての存在感を強めている。これらの動きは今後も拡大し、メタバース技術が日本社会の様々な側面に深く根付き、企業とコミュニティの強固な結びつきを生み出し続けることが期待される。