NFT(Non-Fungible Token)技術の活用は、エンターテインメント産業に新たなビジネスモデルをもたらしつつあります。特に、オンラインとオフライン体験を融合した「次世代ファンダムビジネス」は、近年注目度が急上昇している分野の一つです。今回は、2025年9月に発表されたb.stageと三菱地所CVCの協業事例を通じて、NFTが刷新するエンタメ産業の最新動向を紹介します。
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ファンダムビジネスの変革とNFTの役割
従来、エンターテインメント領域のビジネスモデルは、物理的なグッズ販売やコンサート、ライブイベントを軸に収益をあげる形が主流でした。しかし、インターネットやスマートフォンの普及により、ファンとアーティスト・IP(知的財産)との関係性やエンゲージメントのあり方が大きく変わりつつあります。
ここでNFTの技術が噛み合うことで、
– デジタル資産としての所有証明(唯一性と真正性)
– ファン同士のコミュニティ形成や限定特典の設計
– オンライン上からリアル体験への拡張・融合
などが実現可能となり、新しい熱狂と価値循環が生まれています。
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事例:b.stage × 三菱地所CVC — オンライン×オフラインの統合ファン体験
b.stageは、グローバルなファンダムビジネスプラットフォームを展開する最先端企業です。2025年、同社は三菱地所CVCからの資金調達を経て、日本国内およびアジア市場に向けたビジネス展開を加速させると発表しました。
この提携の背景には、b.stageが手掛けた「Snow Man」の韓国初ポップアップストアの成功事例があります。b.stageは、公式NFTパス(入場証明やファングッズの限定デジタルアイテム)を活用した
– 入場予約のトークン化
– ECでの事前グッズ購入と現地受け取りの連携
– イベントごとの限定デジタル特典配布
といったサービスを統合し、ファンのオンライン上の熱量や消費データをリアルイベントへと“価値変換”する仕組みを実装しました。
その結果、ファンは「NFTパス」をデジタルウォレットに保有し、リアルイベントの来場証明や今後の特別コンテンツ(音声メッセージ、限定映像、次回イベントの優先権など)へのアクセス権として利用できます。これは単なるグッズ販売・イベント開催を越えた「エンタメ体験そのものの資産化」を意味しています。
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ビジネスモデル革新のポイント
b.stageモデルの革新性は、ファンダム経済の真の“価値の源泉”が「デジタル空間とリアル資産の融合領域」にあると見抜いた点にあります。
– デジタルでの体験(NFT・Webコミュニティなど)と、リアルでの体験(イベント、物理的な空間、限定グッズ等)がシームレスに連動
– NFT発行を通じてファンのアクティビティやロイヤルティが記録され、それ自体が新たな価値尺度・報酬体系となる
– 企業側は、NFTを介してファン一人ひとりのカスタマージャーニーをデータとして可視化、個別最適化した体験やオファーが実現
こうしたアプローチは、ファンの消費行動の中心が「所有」から「体験」へシフトしつつある現代の本質的なムーブメントを捉えています。今や「好き」の熱量を、リアルとデジタルをまたいで持続的に循環させる仕組みが、エンタメ産業の競争優位を左右するといえるでしょう。
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今後の展望
三菱地所グループは、このファンダムビジネスモデルを自らの保有する商業施設や街づくり事業とも連携させ、場所そのものの魅力や顧客体験価値を底上げする方針です。つまり、NFT活用による「都市空間×デジタル資産」の新たなマーケティングやエンゲージメント手法が登場しつつあります。
b.stageの関係者は、「Snow Manの事例を皮切りに、日本国内外の“推し活”市場全域へ、グローバルスタンダードとなる次世代ファン体験モデルを浸透させていく」と語っています。
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NFT活用が刷新するエンタメ産業の新ビジネスモデル、それはデジタルとリアルの相互補完による「推し活経済圏」の創出という最新トレンドに集約されます。今後も、エンターテインメント産業の収益源や顧客体験、コミュニティの在り方は、NFTならではの技術的特徴を活かした「資産化する体験」の形へ大胆に進化していくことが期待されます。