2025年現在、世界の暗号資産(仮想通貨)規制の潮流は「市場の透明性強化と国際基準への適合」が主軸となっています。ここでは、特に注目を集めている“認可取引所による国内取引義務化の動き”を取り上げ、その背景、目的、各国事例、今後の展望までを詳細に論じます。
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暗号資産規制の変化とその背景
ブロックチェーン技術に裏打ちされた暗号資産市場は成長を続けており、2033年には市場規模が19兆ドル、世界GDPの10%を超える可能性まで指摘されています【3】。既存金融機関や大手資本の参入も相次ぎ、暗号資産はもはや一部の技術者の投機対象に留まらず、グローバルな資産運用・決済手段へと進化しました。しかしその拡大とともに、詐欺、資金洗浄(マネーロンダリング)、テロ資金供与といったリスクも急激に増大しています。
例えば、ベトナムでは2019~2024年の5年間で約2万件の暗号資産絡みの詐欺事件が表面化、被害総額は12兆VNDに上ると報告されています【3】。大半は海外の無登録取引所経由で行われており、ピアツーピア取引の匿名性や技術的トレーサビリティの不足が犯罪を助長してきました。
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「認可取引所義務化」規制の狙い
このような現状を受けて、多くの政府や規制当局は“ユーザーが認可を受けた国内取引所を通じて暗号資産を売買すること”を義務づける方向に動いています。
主な狙いは以下の通りです。
– マネーロンダリング・テロ資金供与対策
認可取引所はKYC(顧客確認)やトランザクション監視システムを標準装備しており、不審取引や犯罪資金の流出入を早期検知・通報できます。
– 市場の透明性・健全性向上
取引レコードが国内規制当局に可視化されることで、不正操作や価格操作、市場混乱を抑止可能です。
– 投資家・消費者保護
万一トラブルや詐欺が発生した際も、国内の法律に基づく救済措置や行政指導でユーザーの権利が守られやすくなります。
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主要国の動向
【アメリカ】
2025年、トランプ政権下で仮想通貨への規制緩和や制度見直しが進行中ですが、表面化しているのは「国内登録取引所経由での取引推奨」「機関投資家参入拡大」など、従来より一段厳格な基準整備です。SEC(証券取引委員会)の指導部交代により、ライセンス制の厳格化と投資機会拡大を両立しつつ、市場全体の信頼性向上に寄与しています【1】。
【アジア圏】
タイは2025年、新ルールの下で国内投資信託や金融機関による暗号ETF(上場投資信託)の発行を容認し、監督強化へと舵を切りました。これは、健全な商品組成と透明な資産管理を進める一方、国際基準との整合性を持たせた新たな枠組みです【5】。
ベトナムでは、当局が「認可取引所」を通じた取引以外を事実上排除する方針を明言。これは、近年問題となっている国際取引所経由の犯罪横行を背景にしたもので、今後東南アジア各国にも影響を与える可能性が高いと見られています【3】。
【日本およびその他】
日本も金融庁主導で制度見直しプロセスが開始されており、顧客資産分別管理、システム監査、情報開示義務の強化など、認可取引所を核に据えた透明性重視の方向性です【1】。
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今後の課題と展望
「認可取引所限定」の取引義務化は、暗号資産市場の急成長と犯罪抑止・投資家保護とのバランスを模索するうえで重要ですが、一方で
– Web3.0の思想である“分散性”との緊張関係
– 跨国・非中央集権的プロジェクトとの規制整合性
– 個人間取引(ピアツーピア)やDeFiなど新たなマーケット形態への適用
といった課題も浮上しています。今後は、国際間の規制協調とともに、リスクベースで柔軟にルールを適用する新たな法制度設計が求められます。
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暗号資産規制は単なる金融コントロールに留まらず、消費者保護とイノベーション管理を両立させる、新たな時代の社会インフラとしての役割を担い始めています。今後の世界動向に引き続き注視が必要です。