実世界資産(Real World Asset, RWA)のトークン化は、金融の構造を根本から変える「金融革命」として、2024年から2025年にかけて急速に存在感を増している。特に、不動産や株式、さらには米国債、プライベートクレジット(非公開融資)など、これまでデジタル化が難しかった伝統資産の分野にも革新が及んでいる。その最新動向を、不動産から株式まで幅広い領域にわたる「資産のトークン化による流動性革命」にフォーカスし、詳細に解説する。
トークン化市場の急拡大 ― 米国債・非公開融資・不動産のケース
デジタル証券(セキュリティトークン)やRWAトークンによる資産のトークン化は、2024年1年間で全体の時価総額が32%増加、トークン化米国債の市場規模は179%増加という驚異的な成長を遂げた。また、プライベートクレジットも40%、コモディティ(商品)分野も5%拡大している。これは、従来アクセスや流動性の面で制約があった非上場資産や伝統的金融商品の取引・運用に、デジタル技術が新たな活路を与え始めていることを意味する。
例えば、ブロックチェーン技術を用いれば、東京のオフィスビルやアメリカの不動産、さらには上場株式や米国債に至るまで「1口単位」で細分化して売買できる。実際現在、数十億ドル規模で流通する不動産や債券トークンが複数の主要チェーン(Ethereum、Solana、BNB Smart Chainなど)上で発行されている。これらは国境をまたぐ取引を効率化し、24時間365日のグローバル市場を実現している。
流動性インフラの革新と金融機関の新たな役割
トークン化において非常に重要なのが「カストディ」(保管・管理)サービスだ。原資産(例:実物の不動産や債券)を現実世界で適切に保管し、それに紐づけられたデジタルトークンをブロックチェーン上で流通させるには、高度な技術と厳格な管理体制が不可欠である。
現在、コインベースやフィデリティなどの大手暗号資産事業者が数兆円規模のデジタル資産をカストディし、資産価値の0.05〜0.15%程度の手数料収益を得ている。今後トークン化資産が拡大すれば、こうした事業者に新しい収益機会が生まれる一方、既存の銀行も自らの信頼性と大規模資産管理能力を活かし競争に参入し始めている。もし大手銀行がトークン化カストディを本格展開すれば、従来の金融システムと新興分散型金融(DeFi)の垣根が薄れ、価値連鎖の支配権を巡る争いが激化するだろう。
投資家・経済へのインパクト
RWAトークンの最大の特徴は、従来プロ投資家や一部機関に限られていた投資対象が、個人レベルでも少額かつ分散して所有・売買できるようになる点だ。100万円単位の不動産投資が、数千円で実現する。これにより、資産運用・投資機会の民主化が促進し、「金融包摂」(Financial Inclusion)が加速度的に進む。
加えて、スマートコントラクトを利用した配当・利息の自動分配や、信用スコアをトークンとひも付けて新たな金融サービスを提供するなど、これまで考えられなかったイノベーションも可能になる。例えば、不動産や株式の一部保有者が自動的に収益を分配されるだけでなく、資産を担保に融資を受ける、シェアを売買して現金化する、といった金融のアプリケーションがスマートフォン一つで完結できる時代が到来しつつある。
課題:規制、技術、社会的受容
一方、RWAトークンの普及には課題も多い。規制面では、国ごとの証券法や税制への適合、サイバーセキュリティ、マネーロンダリング対策などが整備途上にある。また、デジタル化された資産の信頼性担保(例:不動産の登記とトークン情報の同一性保証)、そして社会的認知・受容も不可欠だ。これらの課題に官民・業界横断で取り組むことで、トークン化資産は真にグローバルで持続的な市場へと進化する。
未来展望:非中央集権型金融(DeFi)と伝統金融の融合
既存金融と暗号資産業界の融合が深化すれば、AIによる最適化取引、ブロックチェーンによるリアルタイム透明会計、世界中の資本がボーダレスに流動するエコシステムが確立される。その時、RWAトークンは単なる「新しい金融商品」に留まらず、産業構造自体を根底から再設計する起爆剤となる可能性さえある。
まとめ
実世界資産のトークン化は、資本市場の効率化・民主化、そして金融機関の役割再編をもたらし、世界の資本と技術が交差する最先端の現象である。その波は2025年以降もあらゆる産業・地域に波及し、金融包摂とイノベーションのカギを握る決定的な潮流として加速するだろう。



