JPYC株式会社は2025年、日本初となる日本円建てステーブルコインの発行ライセンスを金融庁から取得し、国内外で注目を集めています。特にアジア市場を中心とした国際展開を成長戦略の中核に位置づけており、「日本発・アジア向けデジタル通貨ハブ」というビジョン実現に向けた動きを加速させています。
JPYCがアジア市場を狙う背景には、東アジア・東南アジア地域の経済的結びつきと、貿易・資金決済における効率化ニーズの高まりがあります。従来、日系企業がアジア諸国と貿易取引を行う場合、為替コストや銀行手数料、送金所要時間などの課題が存在しました。JPYCはこうした障壁を、日本円建てステーブルコインによる即時・低コスト・24時間365日決済で解消し、域内貿易の決済インフラを刷新しようとしています。
具体的な国際展開戦略の柱の一つが、「アジア各国通貨建てステーブルコインの日本法準拠による発行」という構想です。JPYCは将来的に、日本円建てJPYCだけでなく、アジア諸国の通貨(例:韓国ウォン、シンガポールドル、ベトナムドンなど)をステーブルコインとして日本の厳格な規制枠組で発行し、日本をアジアのステーブルコイン流通ハブとする狙いを明言しています。このために、JPYCは自社のノウハウや日本の法的透明性を活かし、他国発行体と連携した共通プラットフォームの構築を検討中です【1】。
海外展開の第一歩として、JPYC株式会社は海外取引所や銀行と連携し、JPYCを現地通貨と相互交換可能にする取り組みを進めています。現地パートナー金融機関との協業を通じて、JPYC保有者が簡単に現地通貨へ換金できる環境を整備し、国際貿易や資産運用、旅行者の現地決済ニーズなど多様なシーンでの活用を想定しています。これにより、為替コストの削減や資金移動の即時性確保が期待できます。将来的にはこのネットワークを東南アジア・南アジアまで広げ、日系企業のみならず現地企業・個人の需要まで取り込む計画です。
また、JPYCは電子決済手段等取引業ライセンスの取得や、三菱UFJ信託銀行など大手金融機関との協業による「JPYC Trust」など、多層的な信託スキームを通じて資産裏付けの透明性・安定性を高めています。これにより、海外の投資家・事業者にも安心して利用できるインフラとして定着を目指しています。JPYC Trustなどの信託型ステーブルコインは、各国規制当局とのコンプライアンス対応やAML/CFT(マネーロンダリング・テロ資金対策)体制の充実という観点からも、国際展開に必須の仕組みといえるでしょう。
実需面では、特にファミリーオフィス、ヘッジファンド、クリプトトレーダーといったリテラシー層を中心に、キャリートレードや資産運用目的でのステーブルコイン需要が急増している点も見逃せません。JPYCは発行目標として「3年後に10兆円、5年後に83兆円」という高い目標を掲げており、仮に目標達成後の運用資金の大部分を日本国債などで運用すれば、日本国内の金融マーケットにとどまらず、アジア全体の資金循環にも大きな影響を及ぼすポテンシャルを持っています【1】。
今後は「第一種資金移動業」ライセンスを取得し、従来の100万円上限(日本の資金決済法による電子マネー等の制限)を撤廃、貿易決済や資産運用など大口取引にも対応することで、アジア域内でのさらなる存在感拡大を狙います。さらに、グローバル大手ステーブルコインUSDCを手掛けるCircle社との株主提携や、その運用ノウハウとの融合も国際展開力を高める有力手段となりそうです。
JPYCのアジア市場戦略は、単なる暗号資産ビジネスの枠を超え、日系スタートアップ発の「デジタル通貨によるアジア経済のインフラ革新」という壮大なビジョンを内包しています。既存の金融インフラを補完・刷新するステーブルコインが、域内貿易・資本移動の主役となる日も遠くはなさそうです。