HD-2Dで蘇る『ドラゴンクエストI&II』──“巻物”による戦略的進化
2025年10月30日、RPG界の金字塔『ドラゴンクエスト』の原点にあたる『I』と『II』が、HD-2Dフルリメイクとして同時発売された。両作はファミコン(FC)時代から日本のゲーム文化を牽引し、数多くのファンに親しまれてきたが、今作では「HD-2D」というドットと3DCGが融合した独自表現によってビジュアルが大幅に刷新されている。本記事では、この新生ドラクエで特に注目されている新要素「巻物」について、現代RPGの文脈も交えながら詳述する。
■ HD-2Dリメイクの革新性
HD-2Dとは、株式会社スクウェア・エニックスが「オクトパストラベラー」などで開発実績のある映像技術。ドットキャラクターが立体的な3D背景の中で動き回り、美しいライティングや高解像度エフェクトが加わることで、“懐かしくて新しい”世界観を作り出す。この表現は、往年のファンには郷愁を、新規ユーザーには現代的な没入感を与える大きな要素となっている。
■ “巻物”システムの導入
今作リメイク最大級の新機軸が「巻物」システムである。これは従来シリーズにはなかった仕掛けで、“巻物”を入手・装備することで主人公や仲間キャラクターが新たな呪文や特技を覚えられるというもの。元々初代『ドラクエI』は勇者が一人きり、使える呪文も少なく、非常にシンプルなシステムだった。しかし巻物の導入によって、キャラクターごとに多彩な戦略を組み立てられるようになり、パーティ強化や戦闘の幅が劇的に広がる。
また、呪文や特技のバリエーションだけでなく、巻物ごとにユニークな効果があり、攻撃・防御や補助など、状況に応じて巻物を付け替えることで攻略の自由度も増した。例えば、攻撃呪文強化や回復特化、状態異常対策、緊急時の撤退を助ける巻物など、戦闘における柔軟な対応が可能になったことで、初代の「ただ殴る・回復する」の繰り返しだった戦闘バランスは一新されている。
■ “巻物”が生み出した新しいRPG体験
「巻物」システムは、従来の“レベルを上げて物理で殴る”式単純なバトルから、生き残りのための準備や戦略性の強いRPG体験へと大きくゲームプレイを変革した。たとえば強敵とのバトルでは、事前に敵の弱点やギミックを考慮して巻物を付け替えたり、特定の巻物を使うことで攻略法が広がるなど、パズル的な遊び心も加わった。
またキャラクターごとに覚えさせる呪文や特技を選択できるため、自分だけのパーティビルドが楽しめる。シングルプレイRPGでパーティカスタマイズの醍醐味をこれほど味わえるのは、これまでなかった体験といえる。
ファンの間では、攻略の多様性やコンテンツボリュームが大きく増したことに加え、「巻物」コレクションという新たなやり込み要素も話題となっている。巻物の入手方法も一様ではなく、ダンジョンの謎解きやイベント、特定エリアの探索など多岐にわたるため、冒険心をくすぐられる。
■ 過去作からの進化とRPGの文脈
初代『ドラクエI』は、FC時代のメモリや容量制限により極限までシンプルな設計だった。今作は現代の技術力を活かし、膨大なセリフやイベント追加、さまざまな種族との新たな出会い、ダンジョンの構造変化、ボイス追加やBGMオーケストラ化など、あらゆる面でコンテンツが充実。しかし、「巻物」システムはただ派手さや数値を盛るのではなく、「自分で戦い方を選び、活路を切り開く」ことの楽しさを純粋に拡張している点が、特筆に値するといえる。
■ まとめ─原点回帰と深化のバランス
「巻物」システムは、シリーズの根っこにある“冒険の自由度”や“ロールプレイ”の要素を最先端の形で表現したものだ。初心者には分かりやすく、ベテランには新しい戦略を提示し、原作ファンには「往年のドラクエらしさ」を損なわずにかつてない遊び方をもたらしている。
現代の技術が紡ぐ新しいRPG体験。それは「巻物」1つ取っても、名作のリメイクとはただ見た目を変えるだけではなく、35年以上にわたるゲームの進化やプレイヤーの期待に正面から応えた、真の再創造なのだ。



