JSR、AIブームで半導体材料需要増に期待
半導体材料大手のJSRは、中国のAIスタートアップ「DeepSeek」が低コストAIモデルを発表したことを受け、半導体材料需要の増加に期待を寄せている。JSRの江本賢一執行役員は、新たなAI技術の登場が半導体需要の増加につながるとして、長期的な影響力に期待を示した。
JSRは半導体製造工程で使用されるフォトレジストで世界シェアトップクラスの企業である。同社のフォトレジストは、最先端の極端紫外線(EUV)用製品を含め、幅広い半導体メーカーに供給されている。主要顧客には台湾積体電路製造(TSMC)、米インテル、韓国サムスン電子などが含まれる。
江本執行役員は、JSRのフォトレジスト事業が「基本的にほぼ全ての半導体を作る会社に対して供給」していることを強調した。このため、DeepSeekのような新興企業が業界地図を塗り替えたとしても、JSRの事業に「あまり大きな変化が起きるということではない」と述べている。
AIブームによる半導体需要の増加に対応するため、JSRは生産能力の拡充を進めている。特に、最先端のEUV用フォトレジストの生産を強化しており、今後のAI関連半導体の需要増に備えている。
また、JSRはグローバルな電子材料事業体制の強化にも取り組んでいる。国内では研究開発を拡充するためにフォトレジストの新たな開発拠点を設置する計画を進めている。海外では、韓国の現地法人JSR Micro Korea(JMK)に半導体フォトレジスト用の新工場を建設することを決定し、忠清北道および清州市と投資協議書を交わした。
これらの投資は、AIによる半導体需要の増加だけでなく、自動車産業のEV化や自動運転技術の進展による車載半導体需要の拡大も見据えたものである。市場調査会社のYoleによると、車載半導体市場は2029年には1000億ドル規模に成長すると予測されている。
JSRは、半導体材料業界の再編についても積極的な姿勢を示している。同社は、重複投資が多い材料メーカーの再編の必要性を訴えてきた。現時点で具体的な再編計画は明らかにされていないが、JSRは「日本の産業競争力を上げるために強い材料メーカーを作っていきたい」と意欲を示している。この目標の実現には数年かかる可能性があるが、JSRは長期的な視点で業界の構造改革を目指している。
2024年に政府系ファンドの産業革新投資機構(JIC)による株式公開買い付け(TOB)を経て上場廃止となったJSRは、非上場企業としての柔軟性を活かし、より大胆な投資や事業戦略の展開が可能になった。この新たな体制のもと、JSRはAIブームによる半導体需要の増加を好機と捉え、グローバルな競争力強化と事業拡大を図っている。
半導体業界は技術革新のスピードが速く、競争も激しい。JSRは、自社の強みであるフォトレジスト技術を核としつつ、研究開発への投資を継続し、顧客ニーズに応える新製品の開発に注力している。同時に、生産能力の拡充や海外展開の強化により、グローバルな供給体制の構築を進めている。
AIの進化と半導体需要の増加は、JSRにとって大きな成長機会となる可能性がある。しかし、競合他社も同様にこの機会を狙っており、技術開発競争は一層激化すると予想される。JSRが描く未来の実現には、継続的なイノベーションと戦略的な投資が不可欠となるだろう。