住友鉱山グループが次世代パワー半導体の主要材料であるSiC(炭化ケイ素)基板の量産体制強化に乗り出しています。この動きは、急速に拡大する電気自動車(EV)市場や再生可能エネルギー分野での需要増加を見据えたものです。
同社は2024年度中に、愛媛県新居浜市の既存工場内に新たな生産ラインを設置し、SiC基板の生産能力を現在の約2倍に引き上げる計画を発表しました。この投資額は約100億円に上るとされています。
SiC基板は、従来のシリコン基板と比較して高温・高電圧・高周波での動作に優れており、電力変換効率が高いという特徴があります。これにより、EVの走行距離延長や充電時間の短縮、さらには太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーシステムの効率向上に貢献することが期待されています。
住友鉱山は、独自の結晶成長技術を活かし、高品質なSiC基板の開発に成功しています。同社の技術は、結晶欠陥の少ない大口径ウェハーの製造を可能にし、これにより半導体デバイスの性能向上と製造コストの削減を同時に実現しています。
新生産ラインでは、最新の自動化技術と品質管理システムを導入し、生産効率の向上と品質の安定化を図ります。また、環境負荷の低減にも配慮し、製造プロセスにおける省エネルギー化や廃棄物の削減にも取り組む方針です。
この増産体制の確立により、住友鉱山は世界的なSiC基板市場でのシェア拡大を目指しています。現在、同市場は米国や欧州の企業が主導していますが、日本企業の技術力の高さが注目されており、住友鉱山の今回の投資は国内半導体産業の競争力強化にも寄与すると期待されています。
さらに、同社は研究開発にも注力し、次世代のSiC基板技術の開発を進めています。より大口径化や高品質化を実現することで、将来的には6インチや8インチのSiC基板の量産化も視野に入れています。これにより、さらなる製造コストの低減と性能向上が可能となり、SiCパワー半導体の普及加速につながると考えられています。
住友鉱山の経営陣は、この投資決定について「グリーンテクノロジーの発展に貢献し、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを加速させる重要な一歩」と位置付けています。同社は、SiC基板事業を将来の成長の柱の一つとして育成し、2030年までに年間売上高1000億円規模の事業に成長させることを目標としています。
この動きは、日本政府が推進する経済安全保障戦略とも合致しており、重要な半導体材料の国内生産能力強化という観点からも注目されています。政府は半導体産業の育成を重要課題と位置付けており、今後も関連企業への支援を強化していく方針です。
SiCパワー半導体市場は、2030年までに年平均30%以上の成長が見込まれており、住友鉱山の今回の投資は、この成長市場での競争力強化を図る戦略的な動きといえます。同社は、顧客ニーズに応じた製品開発と安定供給体制の構築を通じて、グローバル市場でのプレゼンス向上を目指しています。
この取り組みは、日本の半導体産業全体にとっても重要な意味を持ちます。高付加価値な半導体材料の国内生産能力を強化することで、サプライチェーンの安定化と技術革新の加速が期待されます。住友鉱山の挑戦が、日本の半導体産業の再興と国際競争力の回復につながることが期待されています。