NTTが2025年10月に提供を開始した国産大規模言語モデル「tsuzumi 2」は、日本語処理において世界トップクラスの性能とコストパフォーマンスを両立し、産業界のAI導入を根本から変革するポテンシャルを持つ。その最大の特徴は、「軽量かつ高性能」という一見相反するハードルをクリアし、かつ企業や自治体など多様な現場での業務効率化とデータセキュリティに配慮したアーキテクチャにある。
まず「tsuzumi 2」は、前モデルの7B(70億パラメータ)から、30B(300億パラメータ)というスケールへの拡大を実現した。そのうえで、GPT-oss 20BやGemma-3 27Bといった同パラメータ帯の海外最新モデルと比較しても、「知識」「解析」「指示遂行」「安全性」というビジネスAIで求められる4つの基礎能力において、きわめて高いスコアを記録している。さらに、GPT-oss 120BやLlama-3.3 70Bといった「数倍以上大きなフラッグシップモデル」との比較でも、日本語性能に遜色がないという評価を獲得している。これは、日本語に特化した綿密な事前学習データの設計や、NTT独自の日本語言語理解アルゴリズムの進化によるものとされる。
AIが社会実装段階に入るうえで大きな壁となってきたのが、電力消費と運用コストの増大である。従来のLLMでは、数十兆パラメータ規模のモデルが性能で有利だが、そのぶん大規模な計算リソースと高額なライセンス費用、さらに機密データの外部送信リスクといった問題があった。tsuzumi 2は1GPUでも高水準の推論が可能な軽量設計で、クラウド・オンプレミス双方の運用にも柔軟に対応。自組織内で閉じた環境でも高精度AIの恩恵が得られる点は、情報機密性が求められる金融・医療・公共領域の現場にとって大きな魅力だ。
また、tsuzumi 2では業界や企業ごとの専門知識埋め込み(Fine Tuning)や外部データとの柔軟な連携(RAG: Retrieval Augmented Generation)機能も強化。これまでの汎用AIでは捕捉が難しかった専門性の高い契約書や規制対応、医療カルテの解析にも現場ニーズに沿ったモデルを効率よく構築できる。その実力は、記者説明会でのデモンストレーションでも証明された。たとえば、実際の契約書とチェックリストを与えれば、リスクの洗い出しや取り組むべき具体的アクションまで自動提案。ニュースリリースの草稿に対しても、冗長表現の整理や用語の統一といったフィードバックを即座に返すなど、即戦力を発揮している。
NTTは2025年度上半期だけで670億円超のtsuzumi関連AI受注を記録しており、今後の売上成長も急速に拡大している。国内での導入先は公共領域が約3割、金融が2割と、社会インフラから産業実務まで幅広い領域からの引き合いが強い。
国産であることの利点も大きい。日本の法規制や文化的背景を考慮した言語処理が求められる現場において、tsuzumi 2はデータ主権や情報流通の透明性を保ちつつ、グローバルモデルにはない対応力を発揮している。ニュースリリースの作成自体をtsuzumi 2で行うなど、開発現場でも実運用が進む。
さらに今後は、多様な分野ごとの個別最適化や、省電力・低コスト運用を生かした分散導入、大規模社会システムとの連携強化が見込まれる。NTTは技術展示イベントでも最新AIソリューションの体験機会を設け、AI利活用の輪を一気に広げていく構えだ。
以上、tsuzumi 2がもたらす最大の可能性は、「日本発のAIが、言語・業務・運用の三位一体で、企業や社会全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を現実のものとする」点にある。圧倒的な日本語性能と合理的な運用設計が両立されたtsuzumi 2は、今後の国産AIのスタンダードとなる資質を十分に備えている。