リップル社が2025年7月、米国通貨監督庁(OCC)に国家銀行免許を申請したというニュースは、仮想通貨・デジタル金融業界全体に大きな衝撃をもたらしています。この動きは、XRPおよびリップルネットのこれまでの展開を新たなステージへ導くだけでなく、米国金融制度の根幹に対しても変革を迫る可能性を孕んでいます。特に注目すべきは、この申請と並行してリップル社が推進している米ドル建てステーブルコイン「RLUSD」の展開が、金融インフラの中でどのような位置づけとなり、金融革命を現実のものとしうるかという点です。
リップル社はこれまでも、世界55か国以上・300社超の金融機関が参加するリップルネットを運営し、国際送金やクロスボーダー決済の高速化・コスト削減を推進してきました。2020年には米大手バンク・オブ・アメリカなど、伝統的金融業界の大手もリップルネットに加わるなど、その実用性と業界での受容は年々高まり続けてきました。他方で、SEC(米証券取引委員会)との長期にわたる裁判闘争という重石も抱えていましたが、2025年6月にリップル社が控訴を取り下げ、XRPの「非証券性」が維持される見通しとなり、事業拡大に向けた最大の障壁がほぼ解消されました。
このタイミングでリップル社が国家銀行免許を申請した背景には、次世代金融インフラの中核を担うという強い意思が伺えます。国家銀行免許の取得によって、リップル社は連邦法のもと米国全土で銀行業務を展開できるようになります。これにより、同社の新たなステーブルコイン「RLUSD」は、米国の厳格な規制下で公式に運用可能となります。法的信頼性が大幅に向上することにより、企業や機関投資家が安心してRLUSDを利用できる環境が整うため、従来の仮想通貨よりもはるかに幅広い金融システムへの統合が期待されています。
さらにリップル社は、米連邦準備制度(FRB)に対して「マスター口座(Master Account)」の申請も行っています。これが承認されれば、リップル社は中央銀行に直接準備金を預けることが可能となり、リップルネット経由で行われる決済や送金業務の透明性・即時性が著しく向上します。従来、準備金へのアクセスは銀行に限定されていたため、フィンテック企業としてのリップル社が中央銀行口座を持つこと自体が、金融インフラのパラダイムシフトを象徴すると言えるでしょう。
リップル社のRLUSD展開は、今後のドル基軸の国際金融秩序にも影響を与える可能性があります。なぜなら、グローバルな法定通貨建てステーブルコインは、国・地域・金融機関間をつなぐブリッジ(橋渡し)の役割を果たすため、クロスボーダー決済の劇的な効率化・低コスト化に貢献するからです。既存銀行システムは多くの中間手数料・時間的遅延を伴っていましたが、リップル社のインフラとRLUSDの活用により、これらの課題が大幅に解消されると期待されています。
また、企業や機関投資家から見た場合にも、トークンによる効率的な流動性管理や即時決済、リアルタイム資金移動など、従来にない利便性と経済合理性が実現するでしょう。また、カストディやAML/KYCといったリスク管理面でも、規制銀行としての信頼を背景に透明性の高いサービス提供が可能となります。
法的な観点でも、リップル社が国家銀行免許を取得すれば、米国内の規制対応において他のステーブルコイン発行体や仮想通貨関連企業に先行する強みを手にします。仮想通貨規制が各国で細分化・厳格化する中で、米国基準での合法的なフレームワークに基づく運用は、国際的な信頼・シェア拡大の大きな追い風となるでしょう。
リップル社の一連の動きは、仮想通貨を未成熟な新興市場から、法定金融機関と並ぶ高度な基幹インフラへ昇華させる試みの最前線と言えます。今後、国家銀行免許の取得が正式に認可され、RLUSDの普及が進めば、リップル社は米金融史に名を刻む「デジタル・ネオバンク」としてその存在感を一層強めることになるでしょう。この「銀行ライセンス × ステーブルコイン」戦略こそが、脱・従来型金融の真の金融革命の号砲となるか、今後も注視が必要です。



