2025年10月10日から11日にかけて、暗号通貨市場全体で突発的、急激な価格暴落「フラッシュクラッシュ」が発生した。この現象の背景として最も注目されたのが、米中間の通商摩擦再燃である。もともと金融市場全体に地政学的リスクと政策不確実性が広がっていた中、それが急速に暗号通貨に波及した。この急変動は、過去最大規模の清算(ロスカット)を巻き起こし、多くの投資家に大きな損失をもたらした。
米中摩擦再燃が市場心理を直撃
10月上旬、米中両国の関係悪化が再び報じられると、株式市場や為替市場ではリスク回避の動きが強まり、安全資産とされる米国債や金への資金流入が加速した。これに加え、暗号通貨も一部の投資家の「デジタルゴールド」の地位を得ていたが、2025年10月第2週には、その期待が裏返しとなった【1】。
レバレッジ取引の連鎖清算
今回のフラッシュクラッシュで目立ったのは、ビットコインをはじめとする主な暗号通貨で、数分~数十分という短時間のうちに10%以上の大幅下落が相次いだ点だ。トリガーとなったのは、大口投資家(いわゆる「クジラ」)や機関投資家によるリスク回避のための売りが始まったこと。その動きをAIアルゴリズムやHFT(高速自動売買)が増幅し、次々とポジションが強制清算(ロスカット)される連鎖反応が発生した。【1】【2】【4】
結果として、日本時間10日深夜から11日未明にかけ、ビットコインは一時、10.48万ドル付近まで大幅下落。時価総額上位のイーサリアム、リップルなど他の主要通貨も軒並み急落し、デリバティブ市場では過去最大規模の清算額を記録した。専門家は今回の下落を「暗号通貨史上、24時間基準で最大規模の暴落」と総括している。【2】
投資家心理と相場構造の脆弱性
市場には依然として高いレバレッジ(借り入れによる資金運用)が蔓延している。ボラティリティ(価格変動性)が元々大きい暗号通貨市場では、主要な価格水準を割り込むと連鎖的なロスカットが短時間に集中しやすい。今回も、多くの投資家があらかじめ設定していた損失限定注文(ストップロス)が作動し、通常の売買よりも一層急激な下落を招いた。【4】
また、流動性の薄い深夜(アジア、欧州、米国マーケットの狭間)に波及したことも、反発力の低下と下振れ拡大を助長した。だが、価格急落後はショートカバー(空売りの買い戻し)も入ったことで、一部銘柄は比較的早い段階で下げ渋った。
ビットコインと市場の今後
このフラッシュクラッシュの直前、ビットコインは複数の強材料(ETFへの巨額資金流入、市場最高値更新など)で高値圏にあったが、米中摩擦を巡る情勢悪化が一転して「利確売り」からの急落トリガーとなった。10月初旬は一時、ビットコイン1900万円(約13万ドル)をうかがう場面も見られたが、クラッシュ後は市場も様子見姿勢が強まっている。【1】【3】
今後、市場参加者は
– 米中の経済・外交政策の変化
– レバレッジ取引水準の見直し
– デリバティブ規制強化の動向
といったファクターに目を光らせている。短期的な価格急変が再発しやすい環境が続いており、不安定な地政学リスクやマクロ経済の動向に敏感に反応する状況だ。
おわりに
今回の例は、暗号通貨市場がいかに外部ショックに対し脆弱であるかと同時に、レバレッジと連鎖清算がもたらす「フラッシュクラッシュ」リスクの高さを示す材料となった。投資家は引き続き、ボラティリティ管理とリスクヘッジの重要性を改めて認識する必要があるだろう。