東芝の次世代RC-IGBT技術により、電動車市場でのパワー半導体競争が激化している。同社は独自の逆導通IGBT(RC-IGBT)技術を核として、電動車の急速な普及に対応するため、パワー半導体の生産能力増強を進めている。
RC-IGBT技術の革新的アプローチ
東芝が開発したRC-IGBTは、従来のパワー半導体が抱えていた構造的な課題を根本的に解決する技術である。この技術の最大の特徴は、フリーホイールダイオード(FWD)を1チップで構成することで、パワー半導体素子のチップ面積を大幅に削減できる点にある。
従来のIGBTでは、同一素子内にIGBTとFWDが存在することで、それぞれの設計最適化が困難という課題があった。しかし東芝のRC-IGBTでは、FWD動作時にIGBT側からの過剰な正孔の注入を抑制させることで、IGBTの特性を損なうことなくFWDの特性を改善することに成功している。
電動車市場への戦略的対応
電動車向けパワー半導体市場の中でも、トラクションインバーター分野は最大の市場規模を誇る主力分野として位置づけられている。東芝はこの重要な市場に対し、独自技術を活かしたSiC MOSFETとシリコンIGBTの両軸での展開を強化している。
東芝の欧州現地法人であるToshiba Electronics Europeは、PCIM 2025において、RC-IGBT搭載の2in1両面冷却モジュールや2in1のSiCモジュールのサンプルを公開し、電動車インバーター向け製品のフルラインアップ展開を示した。
技術的優位性とシステム効果
RC-IGBT技術の採用により、放熱面積が大幅に拡大し、熱抵抗の大幅な低減が実現される。これにより、パワー半導体システム全体の小型化と低コスト化が同時に達成できる点が、従来技術との大きな差別化要素となっている。
さらに東芝は、電極を三つ持つ「トリプルゲート」構造のシリコンIGBTの開発も進めており、スイッチング時の電力損失を最大約4割削減することに成功している。この技術革新により、電力変換器の高効率化が実現され、カーボンニュートラルの実現に大きく貢献することが期待されている。
SiC技術との統合戦略
シリコンベースのRC-IGBT技術と並行して、東芝はSiC MOSFET分野でも積極的な展開を図っている。2024年11月には、同社初となる車載インバーター向けの1200V耐圧SiC MOSFETを発表し、ベアダイ製品のサンプル出荷も開始している。
この二重戦略により、東芝は市場の多様なニーズに対応しながら、低オン抵抗と高信頼性を両立した製品ラインアップを構築している。特に高耐圧かつ小型パッケージを実現する2in1仕様のモジュールは、電動車の小型化と高性能化の両立を可能にする重要な技術となっている。
市場競争での優位性確立
電動車市場の急速な拡大に伴い、パワー半導体分野での競争は激化の一途を辿っている。東芝は独自のRC-IGBT技術とSiC技術の両軸展開により、この競争の中で明確な差別化を図っている。
今後2~3年以内の製品化を目指している新構造IGBT技術と併せて、東芝のパワー半導体戦略は、電動車市場の成長とともに重要性を増していくことが予想される。特にトラクションインバーター分野での技術的リーダーシップの確立は、同社の電動車関連事業の成長にとって極めて重要な要素となっている。