ゲーミングPC市場はここ数年で大きな転換期を迎えている。従来は「性能至上主義」が主流であり、CPUやGPUといったハードウェアスペックの高さこそが価値の中心に据えられていた。しかし2025年現在、市場は単なる処理能力やリフレッシュレートだけでは語りきれない、多面的な価値提案に向かっている。その象徴的なトレンドが「クリエイティブ性能の重視」である。
かつてゲーミングPCは「ゲームを高画質・高フレームレートで快適に動作させるための道具」として位置付けられてきた。しかしユーザー層の拡大、新しいエンターテインメントの形態(例:VTuberや動画配信、eスポーツシーンの成熟)を背景に、「ゲームだけでなく幅広い用途に使えるPC」を求める声が増している。
【クリエイターとゲーマーのニーズの融合】
東京ゲームショウ2025におけるゲーミングPCブランド・GALLERIAの展示ブースでは、この変化が如実に表れていた。GALLERIAはThreadripper搭載モデルを初公開し、その超高性能ぶりをアピールしたが、注目されたのはスペックだけではない。会場では、3DCG制作者や動画編集者、そして配信者といった、いわゆる“創作系プレイヤー”が登壇し「ゲームだけでなく、動画編集や3D CG制作などのクリエイティブ用途にも応えるPCの重要性」について語った。PRiZE氏は「元々は編集者として選手のPV制作などもしているため、ゲーミングPCにはクリエイティブ性能を強く求めている」と明言している。
従来、こうした用途はクリエイター向けワークステーションPCの専売特許だったが、近年はゲーマーとクリエイターの境界が曖昧になり、配信しながらゲームを遊び、同時に動画やCGを編集するユーザーが増加。PCベンダー各社も、プロセッサやグラフィックスの選択からメモリ・ストレージ構成までを「多用途志向」でアピールするようになった。
【コラボレーションと独自体験へのシフト】
もう一つの顕著なトピックがブランドやコンテンツとのコラボレーションモデルおよび、PC自体の「体験価値」の訴求である。ガレリアのGSLシリーズでは、有名VTuberやeスポーツチームとのコラボモデルを展開し、PCが単なる消耗品やパーツの集合体ではなく、「推し活」やコミュニティ体験のプラットフォームとして位置付けられている。未発売モデルの先行展示ではファンの熱気も高く、特定配信者やチームの世界観を反映したデザインやプリインストールソフトなど「他にはない価値」を重視している。
また、BenQやアイ・オー・データなどのモニターメーカーも、従来のスペック自慢から脱却し、「没入感」や「クリエイティブとゲームの架け橋」として新しい映像体験や機能拡張を前面に押し出している。AIによる映像最適化やWebOS搭載による動画配信サービス対応など、PCと連携したトータル体験に進化している点が注目される。
【高額モデル・エクスペリエンス重視への進化】
TGS2025で発表されたGALLERIAのThreadripper搭載モデルなどは、最高300万円という価格帯ながらも「クリエイティブ性能」「デザイン」「快適性」といった体験価値に重きを置き、従来のゲーミング性能競争とは一線を画している。これまでであれば“高価で手が出せない”という声が多かったが、一部のプロフェッショナル層や熱心なファンの間では「単なるゲーム用マシン」以上の投資対象として認識されている。
【今後の見通し】
市場調査でも、今後はゲーミングPC市場が「より高い多用途性」と「体験価値の充実」を競争軸に成長していくと予想されている。特定コンテンツとの連携、創作活動への最適化、新しいユーザー体験――こうした多面的な価値提案の志向は、今後もますます加速していくだろう。
ゲーミングPCはもはやハードウェアスペックだけを比べるものではなく、それぞれのユーザーがどんな「体験」や「コミュニティ」を重視するかという、“個の多様性”と“体験の質”を中心とした新時代に突入したと言える。