松本潤主演の医療ドラマ『19番目のカルテ』は、2025年夏ドラマの中でも特に注目を集め、視聴者や医療関係者から高い評価を受けた作品である。その核心は、これまで日本の医療界であまりスポットが当たらなかった“総合診療医”という新しい医療分野に焦点を当てている点にある。ドラマは、医療の専門分化が進む中で患者を総合的かつ丁寧に診察し、「患者の抱える苦しみを解きほぐし導く」総合診療医の姿をリアルに描き、その社会的意義と必要性を強くアピールした。
物語の舞台は魚虎総合病院。主人公の総合診療医・徳重晃(松本潤)が、患者一人ひとりの話を根気強く聞き取り、多角的な視点から診断を行うことで、従来の専門医が見落としがちな複雑な症状の背景や人間関係にも光を当てていく。医療が細分化されるにつれて生じる「医療の落とし穴」を浮き彫りにし、患者が本当に必要とする「何でも相談できる医師」がいかに大切かを視聴者に伝えた。
しかし本作は放送中に思わぬ困難にも直面した。ドラマのメインキャストの一人である俳優・清水尋也が麻薬取締法違反で逮捕されたため、制作側は急遽清水の登場シーンを大幅にカット、最終話の再編集を行った。この事態は放送スケジュールにも影響を及ぼしつつ、松本潤自身もSNSで「最後まで宜しくお願いします」とファンに呼びかけ、作品への強い思いを示した。逮捕報道直後も7月の放送開始から基本的には好調な視聴率を維持していたが、8月末の回は他局の大型特番『24時間テレビ』の影響で一時的に視聴率が7.9%と落ち込んでしまった。
それでも『19番目のカルテ』は2025年夏ドラマの人気ランキングで2位に入り、医療ドラマが根強い人気を維持する中で新たな医療テーマを切り拓いた点が高く評価された。また、松本潤の静かで奥深い演技も視聴者の共感を集め、総合診療医の役割をさりげなく、しかし確実に視聴者に伝えることに成功している。
医療専門化の中で日本には「何でも相談できる医者」が特に少なく、総合診療医は未だ約900人程度と非常に希少な職種である。ドラマはそんな現実と課題も映し出し、医療界における人材育成や医療体制の見直しへの社会的関心を高める役割も果たしている。結果的に、本作は医療ドラマとしての面白さだけでなく、日本の医療制度や患者と医師の理想的な関係性について深く考えさせられる作品となった。
ドラマの成功を背景に、主演の松本潤は今後も医療ドラマや社会派ドラマへの出演が期待されている。さらに制作側は今回の不測の事態を乗り越え、DVD&Blu-rayの発売も決定しており(2026年1月30日発売予定)、医療ドラマファンにとっては再度じっくり視聴できる機会も整いつつある。
医療の専門化が進む現在、日本の医療に必要な新たな視点を示した『19番目のカルテ』は、松本潤の主演によって、医療ドラマの新たな地平を切り開きつつあると言えるだろう。