2025年9月、米国の仮想通貨ETF(上場投資信託)市場は歴史的な転換点を迎えた。米証券取引委員会(SEC)が、ナスダックやNYSE Arca、Cboe BZXといった主要取引所が申し立てていた「コモディティ・トラスト株式の上場基準」を承認したことで、仮想通貨を原資産とするETFの審査・上場プロセスが劇的に効率化されたのである。従来、現物型ETFは1件ごとに個別の審査と最長240日の承認待機期間を要したが、この新基準により、市場全体が共通するガイドラインを満たしていれば、最短75日で次々と上場が可能になった。
この決定は、2024年のビットコイン現物ETF承認を契機に生じた「仮想通貨ETFブーム」の需要拡大に応えるものである。昨年は米国初のビットコイン現物ETFが承認され、直後から急速な資金流入が巻き起こった。2025年に入るとイーサリアム、ソラナ、さらにはXRP(リップル)、ドージコイン(DOGE)といった主要アルトコインのETF上場も相次ぎ、投資家の選択肢が一気に拡大。取引所や金融機関のみならず、リテール投資家にも仮想通貨市場へのアクセスがかつてないほど開かれたものとなった。
SEC委員会内部でも、この基準見直しの影響は明言されている。委員長のポール・アトキンスは「米国資本市場がデジタル資産のイノベーションで世界をリードする準備が整った」と述べ、実際、ブルームバーグ等の市場関係者も「今後数週間から数カ月で、数十種類にのぼる新たな仮想通貨ETFが登場する」と指摘している。これまでは、ETFの数が限られていたため分散投資の幅にも制限があったが、新制度によって機関投資家・個人投資家を問わず、より多様な仮想通貨資産に手軽にアクセスできる環境が整いつつある。
一方で、拡大するETF市場の影響が及ぶのは仮想通貨投資の世界に留まらない。昨今のNFT(非代替性トークン)市場も、ETFと金融商品化の流れに呼応する形で、“流動性の壁”を破ろうと模索が進んでいる。これまでNFTは主としてデジタルアートやゲーム・メタバースなど特定コミュニティ内での取引やコレクションが中心だった。しかし、仮想通貨ETFの次なるステージとして、NFTバスケットETFやNFT指数連動型ETFといった構想も現実味を帯びてきた。
NFT関連ETFの現状は、まだ黎明期にあり、SECの基準が十分整備されていないものの、大規模な仮想通貨ETF市場でアルトコインやWeb3関連銘柄の人気が高まることで、NFTプロジェクトやNFT基盤トークンにも資金流入の波及効果が期待されている。特に、NFT市場で評価の高いプロジェクトや、現実資産(RWA:Real World Assets)への応用など実需性の高いNFT分類が、ETF投資のフローストーリーに巻き込まれる可能性がある。
さらに、2025年には機関投資家によるNFTファンドやNFTデリバティブ(金融派生商品)商品も組成され始めており、単なるコレクターズアイテムから流動的な金融資産への地位向上を狙う動きが進展している。このような新たなNFT商品も、仮想通貨ETF市場の拡大効果と規制緩和の波を最大限に利用することで、市場規模・参加者の裾野を一段と広げていくことが予想される。
米国で始まった仮想通貨ETFブームの第2ラウンドは、単なるコイン投資の民主化を超え、NFTやDeFi、RWAなどWeb3領域全体の金融インフラ構築と資産運用エコシステムの刷新へと進化しつつある。とはいえ、規制監督当局の監視と投資家保護の両立は、今後も最重要課題である。審査期間の短縮で商品が急増する一方、「未検証のETF乱立によるリスク管理」や「基盤となるNFTの透明性・真正性証明」など新たな課題も顕在化している。
今後数カ月で、これらの新ETFやNFT連動型商品がどの程度市場に受け入れられるか、それが米国だけでなくグローバルな金融商品規制・資本市場形成にどのような波及効果をもたらすかが、世界のデジタル金融史において重要な観測点となるだろう。