メタバース観光が地方の魅力を蘇らせる代表例として、島根県江津市がVRプラットフォーム「VRChat」上に再現した「石見神楽」(伝統的な神楽芸能)をあげることができる。このプロジェクトは、江津市の伝統文化を荘厳かつリアルにメタバース空間に再現し、物理的な距離を超えて文化発信と観光PRを行うものである。これにより、地元に訪れなくても文化体験が可能になる一方で、遠隔地の人々に江津市の魅力が伝わり、実際の来訪促進にもつながる点が特徴である。
江津市の「石見神楽」ワールドは、現地で撮影したフルトラ映像や地元の神楽団体の協力で本格的に制作されており、伝統芸能の迫力や神秘性をメタバースで伝える新たな試みとなっている。このようなメタバース観光は「単に見るだけ」ではなく、地域の文化資源を深く体感・理解させるインタラクティブな体験を提供する点が画期的である。さらに、地方創生と伝統文化の保存、発信を同時に実現できるモデルとして注目されている。
メタバース観光の利点は、遠隔地にいる人々に地域の文化や魅力を高精度で伝えられるだけでなく、現地の環境負荷やオーバーツーリズムの問題も緩和できる点にある。リアルとバーチャルが融合した「観光SX(Sustainability Transformation)」の視点で、自然や文化を守りつつ地域社会の活性化を図る新たな旅の形として期待されている。京都の事例では周辺エリアの自然体験や時間分散による観光価値向上が進められているが、これと同様にメタバース観光はリアル訪問へ誘うきっかけとして働く。
また、鳥取県倉吉市の「バーチャル倉吉」のように、街並みや文化を再現したメタバース空間が地域課題の解決や人材教育にも寄与する取り組みが進む。こうしたプロジェクトは単なる観光促進に留まらず、地域コミュニティのデジタル化推進や若者の地域参画活性化にも繋がっている。
さらに、埼玉県秩父市の例では、VR動画を活用して紅葉や歴史ある祭りの臨場感を全国へ届けることで、平日の観光需要喚起を狙う取り組みも見られる。メタバースやVRは地域の細やかな魅力を時間や場所の制約なく伝える力を持ち、地方観光の新たな活性化手段として切望されている。
総じて、メタバース観光は単なる「見るだけ」では終わらず、地域の文化・自然・歴史的資源をバーチャル空間で体感し、地域のブランド価値を向上させるとともに、リアル訪問の動機づけにもつながり、地方創生を強力に支援している。デジタル技術の進化とともに、これらの取り組みが地方の真の魅力を再発見・再活性化し、新しい観光の可能性を切り拓いていると言える。
—
具体的には、
– 江津市の「石見神楽」メタバースワールドは伝統芸能のリアルな再現で遠隔から体験可能
– 鳥取県倉吉市の「バーチャル倉吉」は街並み文化を3D再現し地域振興や人材教育にも活用
– 秩父市は紅葉や夜祭りのVR動画で臨場感を全国発信し、観光需要の底上げを図る
– 京都では観光SXの考え方を条件としたリアルとバーチャルの融合で自然負荷分散を実現
これらはメタバース観光が「ただ見る」だけの体験を超えて、地域の社会的価値を再構築し、持続可能な観光モデルを形作る新時代の観光形態を示している。今後も高精細な映像技術やAIによるパーソナライズが進むことで、さらに没入感・体験価値が高まり、全国の地方がメタバースを通じて内外に魅力を発信していくことが期待される。