イーサリアム最新動向:2025年「Pectra」アップグレードの全貌と業界への影響
2025年春、イーサリアム(Ethereum)が予定する大型アップグレード「Pectra(ペクトラ)」は、ネットワークの進化と仮想通貨業界の将来像を占う重要な転換点となろうとしています。DeFi(分散型金融)やNFT、Web3アプリケーションの基幹インフラであるイーサリアムにとって、今回のアップグレードが持つ意義、目指す技術的ブレイクスルー、そして市場環境への波及効果について徹底解説します。
—
Pectraアップグレード概要と技術的進化の要点
イーサリアムのPectraアップグレードは、2025年5月7日にメインネットでの実装が予定されています。Pectraは、2024年3月に実施された「Dencun(デンクン)」アップグレードに続く、さらなるレイヤー1(L1)・レイヤー2(L2)連携の強化、スケーラビリティおよびユーザビリティの劇的な向上を主眼にしています。
主な技術的特徴は次の通りです。
– BLOB容量倍増
L2ネットワークがL1にデータ提出するために使う「BLOB(Binary Large Object)」の容量を、1ブロックあたり3から6へ倍増。これにより、L2ロールアップのトランザクション処理能力が拡大し、利用者の手数料(ガス代)やネットワークの混雑状況が大幅に緩和される見通しです。
– ステーキング上限の大幅引き上げ
現行の32ETHから2048ETHへ、バリデータ(検証者)が一度に預けられる最大ステーク額が拡大。機関投資家や大口参加者にとってステーキング運用の利便性が高まり、間接的にネットワークの分散性とセキュリティの強化にも資すると期待されています。
– 手数料支払い方法の拡張
今回からステーブルコイン(USDC、DAI等)を使った取引手数料の支払いが可能に。仮想通貨に不慣れな新規ユーザーにも使いやすい環境となり、エコシステムの拡大を後押しします。
– コールデータコストの調整
L2からL1へ送るデータ(コールデータ)のガス代見直しが行われ、L1上の混雑緩和も狙われます。
– フェーズ2での更なるスケーラビリティ改善
2025年末から2026年初頭を目安に、データ保存構造の最適化やノードが全データを保存せずに検証できる新機能も段階的に実装予定。
—
市場環境とPectraアップグレードの背景
2025年に入ってからのイーサリアム市場は、価格下落やネットワーク利用の低迷、手数料収入の減少といった厳しい状況にありました。ETH価格は2025年第1四半期だけで45%以上下落、手数料収入も過去5年で最低水準に落ち込むなど、投資家心理にも陰りが見えています。
背景には、L2ネットワーク発達によるL1の取引手数料シェア縮小、ソラナやバイナンスコインといった競合チェーンの台頭があります。L2上の処理が安価・高速化したことで、L1への価値還元が限定的となり、「ETHがネットワークの成長から十分な利益を吸収できていない」という課題が業界内で指摘されています。
さらに、ETH市場支配力(時価総額シェア)も約7.3%まで低下し過去5年で最低の水準。ユーザーの資金流出や「ETH以外」への注目拡大が見られます。それだけに、Pectraアップグレードが果たす「エコシステム維持と新規価値創出」への期待はかつてなく高まっています。
—
Pectra実装のもたらす影響と展望
Pectraが実現すれば、イーサリアムはどのように変わるのでしょうか。
– L2依存型拡張戦略の推進
Eth本体(L1)は「基盤インフラ」としての役割に徹し、ユーザー向けサービスや大量トランザクションは各種L2ソリューションに任せる——という設計思想が明確化します。そのためのデータ処理能力や手数料体系が最適化されるため、長期的にはユーザー快適度や開発者体験の改善が見込まれます。
– L2競争の激化と課題
コストやスループットを重視するプロジェクトが、より安価な外部データ可用性レイヤーへ流出するリスクもあります。CelestiaやEigenLayerなど、新興データレイヤーの台頭とL2コミュニティの価値捕捉問題は、今後も業界の焦点となりそうです。
– 機関投資家の参入促進
ステーキング上限の増加と手数料支払い柔軟化は、金融機関や大口投資家にとって魅力的な環境を提供。ETHの長期安定保有やネットワークへの関与が拡大すれば、価格下支え要因となる可能性もあります。
– 「価値捕捉」戦略の再設計
ETHそのものの経済的基盤の強化(=「ネットワークの成長=ETH保有メリット」)に向け、手数料体系やBLOB価格見直しといった議論が引き続き続いています。
—
今後の展望と投資家への示唆
Pectraアップグレードは、イーサリアムの技術的な最先端を象徴すると同時に、「真の分散型経済圏」に向けた進化の通過点でもあります。ただし、競合チェーンの急成長、市場支配力低下、L2との関係性といった深刻な課題が山積みです。今回のアップグレードが即座に価格の反転や投資家心理の劇的な改善につながるかは不透明ですが、中長期的にはイーサリアムのポテンシャルを再評価する分岐点となるでしょう。
一方、チャート分析では、ETHは現在1,500ドル台半ばから後半で堅調に推移しつつも、反発には出来高の裏付けが弱く、1,420ドルを割り込むと再下落のリスクもあると指摘されています。進化するイーサリアムの技術的優位性と、投資家の期待・警戒感、その両者のせめぎ合いが、今後数ヵ月の市場を左右しそうです。
—
Pectraアップグレードは、イーサリアムが「持続可能なインフラ」として進化し続けるか、あるいは新興チェーンに覇権を奪われるかを決するターニングポイント。動向を注視し、テクノロジーと経済圏双方の観点からイーサリアムの真価を見極める時期と言えるでしょう。