半導体自国生産の重要性高まる – 米国政府の大規模支援策が本格始動
米中間の緊張が続く中、半導体の自国生産の重要性が一段と高まっています。特に米国では、2022年に成立したCHIPS・科学法に基づく大規模な政府支援が本格的に始動し、国内の半導体製造能力強化に向けた取り組みが加速しています。
CHIPSプログラムは、米国内での半導体製造施設の新設や拡張を支援するため、約530億ドルの予算を割り当てています。この支援策により、重要な半導体技術に関する供給網をより強靭で自給自足型にすることが狙いです。
2024年から2025年にかけて、米国商務省は複数の大手半導体メーカーに対して助成金の交付を決定しました。主な受領企業には以下が含まれます:
– グローバルファウンドリーズ:助成金15億ドル、融資16億ドル
– インテル:助成金85億ドル、融資110億ドル
– TSMC:助成金66億ドル、融資50億ドル
これらの支援を受けて、各社は米国内での大規模な製造施設の建設を進めています。
特に注目を集めているのが、台湾のTSMCによるアリゾナ州での新工場建設プロジェクトです。TSMCは約400億ドルを投じて、フェニックス郊外に3棟のファブ(半導体製造工場)を建設中です。このうちFab 21では、4nmおよび5nmの先端プロセスノードのチップを月産約20,000枚(ウェハー投入枚数ベース)で生産する計画です。
Fab 21の正式な量産開始は2025年とされていますが、2023年9月の報道によると、同工場では既にApple向けのチップの試験生産が始まっています。これはAppleのA16 Bionicアプリケーションプロセッサを少量生産するもので、工場のシステム検証と設備の稼働確認プロセスの一環となっています。
一方、米国の半導体大手インテルも、アリゾナ州チャンドラーに2つの新工場を建設中です。この2工場への投資総額は約200億ドルに上り、完成予定時期は2024年中とされています。インテルは自社製品の製造だけでなく、ファウンドリ(受託製造)事業の強化も目指しており、これらの新工場はその中核を担う予定です。
こうした大規模投資により、米国内の半導体製造能力は大幅に拡大する見通しです。しかし、世界最先端の半導体製造能力を持つ台湾や韓国と比べると、まだ差があるのが現状です。そのため、米国政府は今後も継続的な支援と投資を行う方針を示しています。
半導体産業は、人工知能(AI)、軍事用途、通信、ヘルスケアなど、幅広い分野で不可欠な存在となっています。また、自動車やスマートフォンから家庭用サーモスタットや冷蔵庫に至るまで、あらゆる製品がますますスマート化し相互に接続される中で、半導体の需要は急速に高まっています。
このような状況下で、特定地域への生産集中がもたらすリスクへの認識が高まっています。台湾や韓国への過度の依存は、地政学的リスクや自然災害リスクを考慮すると、供給の安定性を脅かす可能性があります。そのため、米国をはじめとする各国政府は、半導体の自国生産能力を高めることを国家戦略の重要課題と位置付けています。
CHIPSプログラムによる支援は、単に製造施設の建設だけでなく、研究開発や人材育成にも及んでいます。これにより、長期的な視点で米国の半導体産業の競争力を高めることを目指しています。
一方で、こうした大規模な政府支援に対しては、国際的な貿易ルールとの整合性や、他国との軋轢を生む可能性を指摘する声もあります。また、急速な投資拡大が供給過剰につながる可能性も懸念されています。
しかし、半導体が国家安全保障や経済安全保障に直結する重要技術であるという認識は、米国政府内で広く共有されています。そのため、今後も半導体の自国生産能力強化に向けた取り組みは継続されると見られています。
米国の動きに呼応して、日本や欧州でも同様の支援策が打ち出されており、グローバルな半導体産業の勢力図が大きく変わる可能性があります。今後の展開が注目されます。