東京エレクトロン、宮城県に新棟建設で生産能力を大幅増強
半導体製造装置大手の東京エレクトロン(TEL)が、宮城県黒川郡大和町の製造子会社・東京エレクトロン宮城に約1040億円を投じて新棟を建設し、生産能力を大幅に強化することが明らかになった。この大規模投資により、同社の生産能力は2029年3月期には現在の1.8倍に、将来的には3倍にまで拡大する見込みだ。
新棟は鉄骨造・全免震構造で、地上5階建て、延べ床面積は約8万8600平方メートルの大規模な施設となる。2027年夏の完成を目指しており、最新の製造技術と自動化システムを導入することで、生産効率の飛躍的な向上を図る。
この新棟では、特にエッチング装置の増産に注力する。エッチング装置は半導体製造プロセスにおいて極めて重要な役割を果たし、微細な回路パターンを形成するために不可欠な装置だ。世界的な半導体需要の高まりを背景に、エッチング装置の需要も急増しており、東京エレクトロンはこの分野での競争力をさらに強化する狙いがある。
新棟の特徴として、物流機能の自動化や製造工程の機械化を積極的に推進する点が挙げられる。最新のAI技術やIoTを活用したスマートファクトリーの概念を取り入れ、生産ラインの効率化と品質管理の向上を同時に実現する。これにより、人手不足問題への対応と同時に、製品の高品質化と納期短縮を図る。
また、環境への配慮も新棟建設の重要な要素となっている。省エネ設計や再生可能エネルギーの活用により、CO2排出量の削減を目指す。さらに、周辺環境との調和を考慮した建築デザインを採用し、地域社会との共生も重視している。
東京エレクトロンの今回の投資決定の背景には、半導体業界の急速な成長がある。5G通信、AI、自動運転、IoTなどの先端技術の発展に伴い、高性能な半導体の需要が世界中で急増している。特に、自動車産業のEV化や電動化の加速により、車載用半導体の需要が爆発的に伸びていることも大きな要因だ。
さらに、米中貿易摩擦や新型コロナウイルスパンデミックの影響で顕在化した半導体サプライチェーンの脆弱性に対する懸念から、各国が半導体産業の国内回帰や強化を推進している。日本政府も半導体産業の復活を国家戦略として掲げており、東京エレクトロンの今回の投資はこうした国家戦略とも合致している。
東京エレクトロンの経営陣は、「この新棟建設は、当社の長期的な成長戦略の核となるプロジェクトです。世界最先端の製造技術と自動化システムを導入することで、生産能力の拡大だけでなく、品質と効率性の向上も実現します。これにより、急増する世界の半導体需要に迅速かつ柔軟に対応し、グローバル市場でのリーダーシップをさらに強化していきます」とコメントしている。
業界アナリストらは、東京エレクトロンの今回の大規模投資を高く評価している。ある証券アナリストは、「半導体製造装置市場は今後も拡大が見込まれており、東京エレクトロンの先行投資は極めて戦略的です。特に、エッチング装置分野での競争力強化は、同社の市場シェア拡大に大きく寄与するでしょう」と分析している。
新棟の稼働開始後、東京エレクトロンは年間売上高1兆円を超える企業として、半導体製造装置業界でのグローバルリーダーの地位をさらに強固なものにすると予想されている。同社の今後の動向が、日本の半導体産業全体の復活と国際競争力の強化にどのような影響を与えるか、業界関係者から大きな注目を集めている。