生成AI(Generative AI)はここ数年で大きな注目を集め、ChatGPTや各種イメージ生成ツールに代表されるように、ビジネスシーンでもその応用が急速に進んでいます。しかし、従来の生成AIには「事実誤認(ハルシネーション)」や「最新情報への対応力不足」、「信頼できる根拠の提示が難しい」といった課題が、企業利用や実業務活用時の大きな壁となっていました。そのような中、RAG技術(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)が、こうした生成AIの弱点を補う最新アプローチとして脚光を浴びています。
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RAG技術の本質――既存AIの弱点をどう補うか
RAG技術は、生成AIの「知識の限界」を外部のデータベースや文書からの検索による情報補完によって克服しようとするものです。従来の生成AIは一度学習した内容しか出力できず、最新のニュースや社内固有の情報など、学習後に発生したデータには対応しづらいという根本的な課題が存在しました。また、生成された内容が事実と異なってしまう「ハルシネーション」が生じやすく、より正確な根拠を求める業務現場、とくに法務・医療・金融領域などでは大きな障害となっていました。
RAGは、まずユーザーからの質問や指示に基づき、外部の検索エンジンや知識ベース、社内文書データベースから関連情報を取得します。次に、取得した事実情報をコンテキストとして生成AIに渡し、AIはそれをもとに独自の自然な回答文や要約、提案を生成します。これにより、「常に最新」「信頼性の高い」「根拠を提示できる」AI回答が実現できるのです。
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最新トレンド――マルチモーダルRAGの登場
2025年現在、RAGはさらに進化しています。従来は主にテキストベースの情報検索に限られていましたが、「マルチモーダルRAG」という新たな手法が登場し、画像データや図表、グラフなど非構造化データも組み合わせて検索・参照できるようになりました。たとえば設計書・取扱説明書・技術論文など、図解や図表が多い資料の要点を画像ベクトル情報として、AIが人間の視覚に近い形で内容を把握して回答に活用することが可能になっています。
こうしたマルチモーダルRAGの実装例として注目されているのが、ColPaliという最新フレームワークです。ColPaliは、図表やレイアウトを一体の画像としてベクトル化し、AIによる理解と応答品質を向上させます。企業の実務シーンでは、例えば製品マニュアルの図解部分を含めて設計意図を正確に伝える、社内規程集の図表をもとに根拠を示しながら説明できるなど、従来のテキスト情報のみでは難しかった高度なナレッジ連携を実現します。
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企業DX・AI本格導入の切り札へ
こうしたRAG技術の進化は、近年顕著になっている企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進にも大きく寄与しています。これまで企業の生成AI活用は、「ChatGPT活用による業務効率化」の段階からスタートし、次第に「社内固有情報を含むAI活用」へと進化。その中心技術がRAGであり、例えば社内ドキュメント管理やFAQ、カスタマーサポート、調査・監査などにおいて「信頼できるAI助手」の役割を与えることが可能になります。
さらに現在注目されているのが、複数AIエージェントの協調(マルチAIエージェント)による高度な意思決定支援や回答精度の最大化です。トヨタや富士通、NTTデータなど先進企業では、特定業務領域や役割に特化したAI同士が連携し、多角的にRAG検索および生成を繰り返すことで、より堅牢で応用範囲の広いAIシステムの開発が進められています。要求に応じて最適なエージェントが動的に選ばれ、専門性の高い応答やドキュメント生成が半自動的に実現する未来が見え始めています。
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今後の展望と課題
RAG技術は今後も進化が続くことは確実です。マルチモーダル化やAIエージェントの連携による業務特化はもちろんのこと、企業の情報セキュリティやユーザビリティ向上、AIの透明性確保といった観点でさらに高度化が進むでしょう。一方で運用設計やデータベース整備、社内へのAIリテラシー浸透等、新たな課題にも直面しています。しかし、RAGが生成AIの最大の弱点を補完し、信頼に足るAIアウトプットの“新しい標準” となりつつあるのは、2025年の現場実態として揺るぎない事実です。