半導体業界における注目すべき動向として、台湾積体電路製造(TSMC)と中国の中芯国際集成電路製造(SMIC)の稼働率に顕著な差が生じている点が挙げられます。この状況は、中国ファウンドリー企業の存在感が徐々に拡大していることを示唆しています。
TSMCは長年にわたり、世界最大の半導体ファウンドリーとしての地位を確立してきました。同社の高度な製造技術と品質管理は、Apple、NVIDIA、AMDなどの大手テクノロジー企業から高い信頼を得ています。一方、SMICは中国政府の支援を受けながら、急速に技術力を向上させ、国内外の顧客基盤を拡大しています。
最新の業界データによると、TSMCの稼働率は90%を超える高水準を維持している一方、SMICの稼働率は約70%にとどまっています。この差は一見、TSMCの優位性を示しているように見えますが、実際にはSMICの戦略的な成長を反映しています。
SMICの稼働率が相対的に低い理由として、以下の要因が考えられます:
生産能力の拡大:SMICは積極的に新規工場への投資を行っており、一時的に全体の稼働率が低下しています。これは将来の需要増加に備えた戦略的な動きです。
技術移行期:SMICは最先端プロセスノードへの移行を進めており、新技術の導入初期段階では稼働率が低くなる傾向があります。
顧客ポートフォリオの多様化:SMICは従来の中国国内顧客に加え、海外顧客の獲得にも注力しています。新規顧客との取引開始初期は、フル稼働に至るまでに時間を要します。
一方、TSMCの高稼働率は同社の強みを示していますが、同時にリスクも内包しています。需要変動に対する柔軟性が低く、急激な市場変化への対応が難しくなる可能性があります。
中国ファウンドリー企業の存在感拡大は、単にSMICだけの問題ではありません。華虹半導体(Hua Hong Semiconductor)や上海華力微電子(Shanghai Huali Microelectronics)など、他の中国ファウンドリー企業も着実に成長を遂げています。これらの企業は、中国政府の「製造2025」計画に基づく半導体産業育成策の恩恵を受けており、巨額の投資と優遇政策によって競争力を高めています。
特筆すべきは、中国ファウンドリー企業が単に生産能力の拡大だけでなく、技術革新にも注力している点です。SMICは既に14nmプロセスの量産体制を確立し、7nmプロセスの開発も進めています。米国の制裁措置により最先端の製造装置の入手が困難な状況下でも、独自の技術開発によってこの障壁を乗り越えようとしています。
この動向は、グローバルな半導体サプライチェーンに大きな影響を与える可能性があります。中国ファウンドリー企業の台頭により、特に中低端から中堅クラスの半導体製品市場において競争が激化すると予想されます。また、地政学的リスクを分散させたい顧客企業にとって、中国ファウンドリーは魅力的な選択肢となりつつあります。
ただし、TSMCの技術的優位性は依然として揺るぎないものがあります。最先端の3nmプロセスの量産化に成功し、既に2nmプロセスの開発も進めているTSMCに対し、中国ファウンドリー企業が追いつくには相当の時間を要すると見られています。
結論として、TSMCとSMICの稼働率の差は、単純な性能比較ではなく、両社の異なる成長戦略と市場ポジショニングを反映していると言えます。中国ファウンドリー企業の存在感拡大は、グローバルな半導体産業の勢力図を徐々に変化させつつあり、今後の展開が注目されます。この動向は、半導体業界全体の競争激化と技術革新の加速をもたらし、最終的には消費者にとってより高性能で低価格な半導体製品の普及につながる可能性があります。