東京大学とAGC株式会社(旧旭硝子)は、2025年5月に次世代ガラス基板技術の共同開発において、革新的な「マイクロレーザードリリング技術」を半導体パッケージ分野に導入しました。この技術は、従来型の基板では困難だった微細な孔加工をガラス材料上で高精度かつ効率的に達成するためのものです。この成果は、ハイエンド半導体デバイスのさらなる小型化、高性能化を推進する上で、極めて重要なブレークスルーと評価されています。
ガラス基板は、一般的な半導体パッケージ基板の材料(銅や有機樹脂、セラミックなど)と比べて、寸法安定性や誘電特性、熱膨張の均一性といった物理的優位性を持っています。しかし、ガラスは硬くて脆く、微細加工に不向きという課題がありました。従来の機械的ドリリングや化学的エッチングでは、微小ピッチ穴の高密度形成や均一加工が難しく、製造歩留まりやコスト面で限界がありました。
これに対して東京大学とAGCの共同研究では、ナノ秒からピコ秒レベルで制御可能な高精度レーザー光源を活用し、ガラス基板上に直径数ミクロン以下の孔を一様かつ高効率で開けることが可能となりました。レーザー条件の最適化によって、熱影響層の厚みを最小限に抑え、割れや応力の発生を制御する高度な工程管理が実現されています。これにより、電気的配線密度の向上や多層配線構造の設計自由度が飛躍的に高まり、大規模集積回路(LSI)、高機能メモリデバイス、先進的センサーモジュールなど、幅広い先端分野でガラス基板を活用する道が拓かれています。
また、環境負荷低減の観点でもガラス基板は有望視されています。有機材料や樹脂と比べてガラスはリサイクル性が高く、長期安定した性能維持が可能です。マイクロレーザードリリング技術は、従来の化学薬品使用を大幅に削減しつつ、生産工程の効率化と精度向上を両立するため、工業的・環境的にも持続可能な技術革新と捉えられています。
半導体パッケージ技術の現在、AIや高速通信(5G/6G)、電気自動車、IoT、医療機器といった産業構造の多様化に対応するため、基板技術の進化は必須となっています。市場全体では、銅基板や有機基板が依然として主流ですが、材料特性と加工技術の両面からガラス基板への戦略的シフトが起きつつあり、AGCと東京大学の研究はその中核を担うものとして注目されています。特にマイクロレーザードリリング技術の登場は、サプライチェーンのボトルネック回避や設計自由度の拡張、さらには高信頼性・高性能化デバイスへの道を切り開いており、今後数年で実用化・量産化が進むと予想されています。
この技術の導入によって、従来型半導体パッケージ基板で問題となっていた「高密度・高微細配線エリアの製造限界」、「基板材料の熱・電気性能の制約」、「生産歩留まりの低さによる高コスト構造」などが一挙に解決され、デバイスメーカー・設計事業者はより自由度の高い製品開発が可能となります。さらに、将来的にはシステムインパッケージ(SiP)、3D-IC構造、光電子融合デバイス、MEMSなど、先進技術領域への応用も期待されています。
総じて、東京大学とAGCによる次世代ガラス基板技術の共同開発は、半導体産業だけでなく、幅広いスマートデバイス・先端機器領域のイノベーションを牽引する基盤技術となりつつあります。今後も学術界と産業界の連携を通じ、新しい材料加工法や高度な基板設計技術による未来の電子機器開発が加速していく見通しです。