日立、量子ビット技術で次世代コンピュータ時代を先駆ける
日立製作所が量子コンピュータの核心である量子ビットの制御技術で画期的な成果を上げた。ノイズの多い環境でも安定動作を実現する高精度制御技術を、国立大学法人東京科学大学(Science Tokyo)と共同で実証し、次世代コンピュータの商業化を加速させる一手となった。この技術は、シリコンを基盤とした量子ビットに対し、マイクロ波の連続照射と位相制御を組み合わせた革新的な方式だ。従来の課題であるノイズ耐性と操作精度を劇的に向上させ、ゲート忠実度99.1%を達成。量子情報科学の国際誌「npj Quantum Information」に掲載されるほどの成果で、日立の量子技術戦略が世界をリードする可能性を示した。
量子コンピュータは、従来の古典コンピュータでは解けない複雑な問題を瞬時に処理できる次世代の計算機だ。その心臓部が量子ビット(qubit)で、0と1の重ね合わせ状態を持ち、並列計算を可能にする。しかし、現実世界では熱雑音や電磁ノイズが量子状態を崩壊させやすく、特に半導体産業で標準的なシリコン材料では安定化が難しかった。日立はこれまで、連続マイクロ波照射による「Concatenated Continuous Drive(CCD)」技術を開発し、量子ビットの寿命を100倍以上に延ばす操作法を確立してきた。2024年6月にはその成果を発表し、2025年10月には大規模化に向けた新制御技術を進化させた。
今回のブレークスルーは、CCDをさらに進化させたものだ。量子ビットにマイクロ波を連続照射し、ノイズ影響を抑える「ドレスト状態」を形成。これにマイクロ波の位相を時間的に変調する制御を重ね、「二重ドレスト状態」を実現した。これにより、Ramsey測定によるコヒーレンス時間(量子状態を保持できる時間)が0.14マイクロ秒から40.7マイクロ秒へ約280倍向上。スピン回転の安定性を示すQ値も2.2から25.0に跳ね上がった。量子計算の基本操作であるゲート忠実度が99.1%に達したのは、シリコン量子ビットとして最高水準で、エラー訂正なしでも実用レベルの精度を意味する。
この技術の真価は、大規模化時のスケーラビリティにある。量子ビットを数百、数千集積する際、個々のビット特性にばらつきが生じ、細かなチューニングが必要になるのが難点だ。しかし、日立の方式なら位相制御によりばらつきを自動補正でき、制御負荷を大幅低減。個別調整不要でシステム全体の安定性が向上する。これにより、産業用量子コンピュータの実現が現実味を帯びてきた。日立はScience Tokyoや理化学研究所(理研)と連携を深め、2027年のシリコン量子コンピュータクラウド公開を目標に開発を加速。産学官の枠を超え、国際標準化も推進する。
背景として、量子コンピュータ市場は急成長中だ。グローバル企業が巨額投資を競う中、日立の強みはシリコン量子ビットにある。シリコンは既存半導体工場で量産可能で、コストとスケールメリットが高い。IBMやGoogleが超伝導型を進める一方、日立のシリコン型は室温近傍動作が可能で、エネルギー効率が優位。ノイズ耐性向上により、クラウド経由で企業が量子計算を活用する時代が近づく。例えば、薬品開発の分子シミュレーション、金融の最適化問題、気候変動モデリングなど、社会課題解決に直結する。
日立の取り組みは「NEXT」領域研究の一環だ。同社は量子技術を社会実装し、持続可能な社会基盤を構築。2027年のクラウド公開後、量子ハイブリッドシステムとして古典コンピュータと融合させ、産業変革をリードする構想だ。ノイズ問題の克服は、量子優位性(quantum supremacy)の実証実験を容易にし、日本発の量子革命を象徴する。競合他社が追う中、日立はこの技術で次世代コンピュータ時代を先駆ける存在となった。量子ビットの安定制御が、未来のイノベーションを解き放つ鍵だ。(約1480文字)



