日本政府、次世代半導体開発に本腰 – 産総研の新AIスパコン「ABCI 3.0」が一般提供開始
日本政府が次世代半導体の開発と国内生産体制の強化に向けて本格的な取り組みを加速させている。経済安全保障の観点から半導体の重要性が高まる中、政府は産学官連携を通じて半導体産業の復活を目指している。
この動きの中心となっているのが、次世代半導体研究のために2022年12月に設立された「技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)」だ。LSTCは、2ナノメートル以細の半導体技術開発を進めており、日本の半導体関連産業の競争力強化を目指している。
LSTCの理事長には、半導体業界の重鎮である東哲郎氏が就任。東氏は、次世代半導体の国産化を目指すラピダスの会長も務めており、その豊富な経験と知見を活かして日本の半導体産業の復活に尽力している。
政府は、LSTCを通じて産業技術総合研究所(産総研)、理化学研究所、東京大学、東京工業大学、東北大学、物質・材料研究機構(NIMS)といった国内の主要な研究開発機関の連携を促進。さらに、米国のNational Semiconductor Technology Center(NSTC)や海外の関係機関との連携も進め、国際的な研究開発プラットフォームの構築を目指している。
この取り組みの一環として、産総研が最新のAIスーパーコンピュータ「ABCI 3.0」の一般提供を開始したことが注目を集めている。ABCI(AI Bridging Cloud Infrastructure)は、AIと半導体の研究開発を加速させるための重要なインフラストラクチャーとして位置付けられている。
ABCI 3.0は、前世代のABCI 2.0から大幅に性能が向上しており、AI研究や半導体設計シミュレーションなどの高度な計算処理を可能にする。この最新システムは、NVIDIA H100 Tensor CoreGPUを搭載し、従来比で約3倍の演算性能を実現。また、大規模言語モデル(LLM)の学習にも対応しており、日本のAI研究の発展に大きく貢献することが期待されている。
産総研は、ABCI 3.0の一般提供を通じて、企業や大学、研究機関がより高度なAI研究や半導体開発を行えるようサポートしていく。利用者は、クラウドサービスのように必要な計算リソースを柔軟に利用できるため、大規模な設備投資を行うことなく最先端の研究環境にアクセスできるようになる。
この動きは、日本政府が掲げる「Beyond 2ナノ」時代への対応策の一つとして位置付けられている。政府は、半導体産業を経済安全保障の要として捉え、国内の生産基盤強化と研究開発の促進に向けて様々な支援策を打ち出している。
例えば、台湾のTSMCと提携して熊本県に建設中の半導体工場には、約4000億円の補助金を投じている。また、次世代半導体の研究開発や生産設備の整備に対する支援も強化しており、2025年度までに総額で約1.5兆円規模の投資を計画している。
さらに、経済産業省は次世代半導体の量産体制整備を支援するための新法案の提出を検討しており、国を挙げての取り組みが加速している。
これらの施策により、日本政府は半導体産業の国際競争力を取り戻し、同時にAI技術の発展も促進することを目指している。ABCI 3.0の一般提供開始は、この戦略の重要な一歩となるだろう。
半導体産業の復活と次世代技術の開発は、日本の経済成長戦略の要となっている。政府の積極的な支援と産学官の連携により、日本が再び半導体技術の最前線に立つ日も近いかもしれない。今後の展開に、世界中から注目が集まっている。