サムスンとTSMCの北米半導体製造拠点拡大: テキサス州での大規模投資
半導体産業の世界的な需要増加と地政学的リスクの分散を背景に、韓国のサムスン電子と台湾のTSMCが北米、特にテキサス州での半導体製造拠点の大規模な拡大を進めています。この動きは、米国の半導体製造能力を強化し、グローバルなサプライチェーンの安定性を高めることを目指しています。
サムスン電子の半導体製造部門であるSamsung Foundryは、テキサス州テイラーに新たな半導体製造工場群を建設する野心的な計画を進めています。この計画は、単一サイトに合計10棟の半導体ファブを20年かけて建設するというもので、総投資額は1,700億ドル以上に達する見込みです。
第一段階として、Samsung Foundryはテイラーに約170億ドルを投じて最初の工場を建設中です。この工場では、高性能コンピューティング(HPC)、人工知能、5Gなどの先端技術分野向けに5nmノードのチップを生産する計画で、2024年後半の稼働開始を目指しています。この投資はサムスンが米国で行った単一プロジェクトとして過去最大規模となります。
テイラーでのサムスンの新工場群は、オースティンにある既存のS2ファウンドリーから約16マイルの場所に位置しています。サムスンは1990年代後半からテキサス州に拠点を構え、オースティンに米国初の半導体製造工場を建設しました。新たなテイラー工場群の建設は、サムスンの北米での製造能力を大幅に拡大させることになります。
一方、TSMCもテキサス州での半導体製造拠点の拡大を積極的に進めています。TSMCはフェニックス郊外に3棟のファブ(新設1棟と拡張2棟)を建設中で、総投資額は約400億ドルに上ります。
最初の工場であるFab 21では、4nmおよび5nmのチップを月産約20,000枚(ウェハー投入枚数ベース)で生産する計画です。この施設は、TSMCが台湾国外に建設した3番目の半導体製造工場となります。Fab 21の正式な量産開始は2025年とされていますが、2023年9月の報道によると、同工場では既にApple向けのA16 Bionicアプリケーションプロセッサを少量生産しており、工場のシステム検証と設備の稼働確認プロセスを進めています。
さらに、TSMCは2つの拡張計画を発表しています。Fab 21-2は2026年完成予定で3nmプロセスノードのチップを生産し、Fab 21-3は2028年完成予定で2nmプロセスノードのチップを生産する計画です。これらの拡張により、TSMCはより先端的な半導体製造能力を北米に構築することになります。
サムスンとTSMCによるテキサス州での大規模投資は、米国の半導体製造能力を大幅に強化するだけでなく、地域経済にも大きな影響を与えることが予想されます。新たな雇用創出、関連産業の発展、技術革新の促進など、多岐にわたる効果が期待されています。
また、これらの投資は米国政府の半導体産業支援策とも合致しており、CHIPSプラス法に基づく助成金などの支援を受けることが見込まれています。このような官民一体となった取り組みにより、米国の半導体産業の競争力強化と技術的優位性の維持が図られています。
サムスンとTSMCによるテキサス州での大規模投資は、グローバルな半導体サプライチェーンの再編と、米国の製造業復活の象徴的な事例となっています。今後、これらの新工場が本格的に稼働し始めれば、世界の半導体産業の勢力図に大きな変化をもたらす可能性があります。