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レゾナック主導『JOINT3』プロジェクト、半導体製造を根本から変革

JOINT3プロジェクト:日本の半導体製造が始める新しいパラダイム

日本の半導体製造業界は、優れた部材・素材技術を持ちながらも、今後100年にわたる産業構造の変革を主導する潮流づくりに苦戦してきた。しかし、その常識を覆す動きが今、注目を集めている──レゾナック・ホールディングスが主導する「JOINT3」プロジェクトだ。これは、従来の「微細化」が行き詰まりを見せる半導体業界で、「後工程」革命に挑む野心的な産学連携プロジェクトである。

なぜ今、半導体「後工程」のイノベーションが必要か

近年のAIやデータセンター需要の爆発的な増加に伴い、世界中の半導体メーカーは「計算処理能力」という性能指標を高めるために、微細化の限界に挑んできた。従来、半導体の進歩は「前工程(デバイスの微細化)」によって牽引されてきたが、物理的・経済的限界が見え始めている。そこで注目されるのが「後工程(パッケージング)」──複数のチップをどう効率的に組み合わせ、性能や信頼性を最大化するか、という分野である。

特に、AIサーバーやスーパーコンピュータには、メモリとプロセッサを効率よく相互接続し、高速なデータ伝送を実現することが不可欠だ。この課題のカギを握るのは「インターポーザー」と呼ばれる中間基板技術である。異なる半導体チップをつなぐ「接着剤」のような存在であり、その性能がシステム全体の性能や実用性を左右する。

産学連携「JOINT3」が目指すパネルレベル有機インターポーザー

JOINT3プロジェクトの最大の特徴は、国内外27社と連携し、「パネルレベル有機インターポーザー」という全く新しい技術の実用化を目指す点だ。従来の基板(積層板)はエポキシ樹脂やガラス繊維などを主材料にしているが、JOINT3では有機材料を活かしたコストパフォーマンス、薄型化、微細配線の自由度向上を追求している。

パネルレベル製造とは、ウェハーサイズよりもはるかに大きなパネル(業界で使われる巨大な基板)で製造する技術を指す。これにより、一度に大量の半導体を組み込むことができ、生産コストの大幅低減やさらなる性能向上が期待できる。これまでは、大きなパネルでの高精度な配線形成や信頼性確保が大きな壁だったが、JOINT3は「有機」という材料特性を活かし、革新的なプロセス技術でこの課題を乗り越えようとしている。

また、有機材料は従来の無機基板(ガラス、セラミックスなど)と比べて、柔軟性・絶縁性・耐熱性・コスト面でメリットがある。特に、AI時代に必要とされる「異種集積」(CPU、GPU、メモリ、通信チップなどをひとまとめにパッケージングする技術)において、有機インターポーザーは配線密度や信号品質の最適化に大きなアドバンテージを持つ。今後は、モビリティ(自動車)、IoT、医療など多様な分野への応用も見据え、汎用性の高い基盤技術としての地位を確立したい狙いだ。

なぜ産業共創プラットフォームなのか

JOINT3が注目されるもう一つの理由は「産業共創プラットフォーム」という連携スタイルにある。半導体製造は非常に複雑な事業であり、材料、装置、プロセス、評価技術など多領域の協力が不可欠だ。しかし、これまで日本企業は「自社の強み」に閉じこもり、新しい価値を生み出す「共創」の仕組みが弱かった。

今回、レゾナックをはじめ、材料、装置、評価など多岐にわたる企業群が連携し、サプライチェーン全体で技術課題を共有・解決する体制を構築。たとえば、新しい有機インターポーザーの設計・材料開発・微細配線形成装置の調整・プロセス評価・量産性評価までをワンストップで推進し、2020年代後半の市場ニーズに対応する「新標準」作りを目指す。

さらに、JOINT3は「2030年代の標準技術」を目指すが、もっと長期的な産業ニーズの変化に柔軟に対応できるオープンな枠組みを志向している。今後、異分野(自動車、通信、アンチエイジング、バイオなど)や国際連携も視野に入れ、半導体産業のエコシステム全体を底上げしたい考えだ。

次世代半導体製造を変革するJOINT3の意義

従来、日本の半導体産業は「ものづくりの匠(たくみ)」と呼ばれる現場力や高品質な部材・素材、そして海外企業の追従を許さない特許技術ネットワークを強みとしてきた。一方で、グローバル市場での主導権獲得や、産業構造の一変をもたらすような「大転換」には苦戦してきた。

JOINT3プロジェクトは、この弱点を克服すべく「共創」と「新しい市場創出」に重きを置く。AI、自動運転、デジタルトランスフォーメーション(DX)など産業全体が大きく変わる中で、半導体のパッケージ技術がボトルネックとならぬよう、先手を打つ姿勢だ。

産業界全体で技術革新を巻き起こすJOINT3は、単に「材料メーカーのプロジェクト」にとどまらず、日本の産業力全体が世界市場で存在感を高めるための重要なシグナルとなる。今後、この動きが世界の半導体産業のバリューチェーン構造や、国際競争力の分布をどこまで変えていくのか──業界の注目は一気に高まっている。

(記事本文:約1500文字)

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