フラットパネルディスプレー(FPD)装置市場は、近年、安定成長を続けている分野であり、技術革新と需要拡大がその成長を後押ししている。一方で、地政学的課題が市場の安定性や展望に大きな影響を及ぼしている。今回は、最新の市場成長動向と地政学的なリスクについて、特に「中国市場のウェート減少」に焦点を当てて解説する。
市場成長の最新動向
FPD装置市場は、2024年度に前年比30%増という大幅な成長を遂げ、3,351億円規模へと拡大した。さらに2025年度は3%増の3,451億円、2026年度には10%増の3,796億円が見込まれている。こうした成長は、スマートフォンやパソコンの高性能化、AI技術の普及、デジタルサイネージや車載ディスプレーなど新しい用途の拡大が主な背景にある。
特にAI搭載機器や高精細/大型ディスプレーへの需要が牽引役となり、薄型・高解像度化、低消費電力など、装置メーカーや材料メーカーが挙げる技術的競争も激しくなっている。産業用途でのマイクロLEDやOLED(有機EL)技術の進展も、市場拡大に寄与する重要な要素とされる。
地政学的課題と中国市場のウェート低下
これまでFPD市場の最大需要地であった中国について、日本半導体製造装置協会(SEAJ)は「25年は中国市場のウェートが30%台に減少する」と発表した。従来は世界市場の40%超を占めていた中国だが、今後は最終的に25~30%へと縮小する可能性が高い。
その理由としては米中対立を背景とした技術移転やサプライチェーン分断の懸念、米政府による中国向け半導体・FPD関連技術の輸出規制、また中国国内需要の成熟による装置投資の減速などが挙げられる。米中競争だけでなく、台湾をはじめとするアジア諸国の市場再編やEU・米国による自国生産拡大の動きも、グローバルサプライチェーンに大きな影響を及ぼしている。
さらに、FPD製造装置技術は国家安全保障との関連が強く、ディスプレーパネルが軍事・宇宙、インフラ分野にも重要性を持つため、各国政府の産業政策や規制強化が進められている。中国は自国生産比率を高め海外技術に頼らない体制を構築中だが、先端装置や材料に関しては依然として日本、韓国、台湾、米国企業に大きく依存している。
今後の市場展望と対応策
地政学的リスクの高まりと中国市場依存度の低下は、FPD装置メーカーにとってリスク分散と新規市場開拓の必然性を突きつけている。インドや東南アジア諸国、中南米、欧州などにも新たな需要地が広がりつつあり、日本や韓国、台湾メーカーは戦略的提携や現地生産強化で影響緩和を目指している。
加えて、AIやIoT、5G通信の進展によるFPDの新用途拡大、脱炭素・環境対応技術の強化、品質・信頼性向上といった技術競争も今後の成長を左右する要素だ。グローバル規模の政治・経済動向に敏感なFPD装置市場は、安定成長維持のために技術優位性の確保と市場多様化、規制対応力の強化が求められる段階に来ている。
結語
フラットパネルディスプレー装置市場は、AIやIoT拡大の追い風を受けて今後も着実な成長が期待される一方、米中対立を中心とした地政学的課題が市場の安定性とメーカー戦略に直結する重要なリスクになっている。特に中国市場ウェートの低下というトレンドは、従来の依存構造見直しとグローバルな競争力強化の促進につながるだろう。FPD装置メーカーや関連企業は、この変化を機会と捉え、より広域かつ多面的なビジネス展開を模索することが肝要である。